読書記録59

逃亡者

逃亡者

叙述ミステリーの第一人者”“語りの魔術師”折原一の47作目の最新刊は、’95年の『誘拐者』から始まり、累計46万部を突破したといわれる<・・・者>シリーズの
書き下ろし長編である。
実際に起こった、殺人犯福田和子の逃亡事件をモチーフにしているだろうと思われる物語である。友竹智恵子は、持ちかけられた交換殺人に乗って、知人の夫を殺して
しまうが、警察の不手際で脱走し、殺人事件の時効である15年をひたすら逃亡する
ことになる。
いつもの折原作品と違い、大部分は彼女の逃亡者としての読み応えのあるストーリーが展開される。身分を偽り、顔を変え、出会う人々に支えられながら、ひたすら日本
全国を逃げまわる智恵子。彼女を執拗に追いかけるある刑事と、顔に泥を塗られ復讐に燃える夫。何度もあと一息というところで危機をすり抜ける場面の連続で息をつかせない。
いつもの折原節とは違う、真剣で“真面目”な小説だなと思ってエンディング近くまで
圧倒されて読み進んでゆくと、そこはさすがに折原一。独特の、フォントを換えた
パソコンサイトの表現と、各章の幕間のエピソードが一気に収斂して、衝撃の
サプライズが用意されていた。
本書は、最後の最後に折原一らしい“どんでん返し”があるものの、大半が智恵子の
スリリングで気を抜けない“読ませる逃亡劇”で、ボリューム満点の力作である。