読書記録71

リガの犬たち (創元推理文庫)

リガの犬たち (創元推理文庫)

ヘニング・マンケルの<ヴァランダー警部>シリーズ第2弾。
’03年、「このミステリーがすごい!」海外編第19位にランクインしている。
スウェーデン南部の海岸にゴムの救命ボートが流れ着いた。なかには高級なスーツ姿の若者ふたりの射殺体が横たわっていた。やがて死体がラトヴィア人だと分かると、
バルト海を挟んだリガの警察から中佐が派遣され、引き取っていったが、帰国直後に中佐は何者かに殺害されてしまう。ラトヴィアからの要請を受けてヴァランダーは現地に赴く。スウェーデンの田舎町イースタとはまるで勝手が違う警察の捜査体制に戸惑うヴァランダーに、謎の地下組織らしいところから接触が図られる。
後半は、中佐の未亡人から懇願され、一度は帰国したヴァランダーが、身分を偽り、
ラトヴィアに再び潜入するのだが、彼は自分でも知らない間に、命の危険すら覚える
謀略の渦中に身を置くことになるのだった。
本書が発表された’92年は、ラトヴィアが旧ソ連から分離独立した直後であり、いまだソ連に通じる人脈によって掌握されている社会で、地下で密かに、しかし果敢に命がけで自由を求め、独立運動をする人々の姿が生々しく描写されている。そんな人々に頼りとされるヴァランダーの動きは、警察小説を離れて、東西スパイ小説の趣を
感じる。
本書は、知られざるラトヴィアの首都リガでのヴァランダーを描くことにより、
世界に冠たる福祉国家として名を馳せるスウェーデンといえども、バルト海の対岸の国家とは無縁ではいられない現代の国際情勢を訴えているように思う。