読書記録72

白い雌ライオン (創元推理文庫)

白い雌ライオン (創元推理文庫)

ヘニング・マンケルの<ヴァランダー警部>シリーズ第3弾。
文庫にして701ページ。質・量ともに前二作を凌駕する大作である。
’04年、「このミステリーがすごい!」海外編第15位にランクインしている。
また、「週刊現代」に掲載されていた「警察小説ベスト10」では、スチュアート・ウッズの『警察署長』に次いで第2位になっていた。
ストーリーは、スウェーデン南部の田舎町イースタで不動産業者の女性が物件を下見に行って迷ったところ、いきなり男に射殺されるところから始まる。帰宅しない妻の
失踪届がその夫から出され、ヴァランダー警部らイースタ署が捜索を始める。ところが捜索現場の近くの空き家が突然爆発炎上し、焼け跡から、黒人の指と南アフリカ製と思われる銃、ロシア製の通信装置が発見される。謎をはらんだふたつの事件。しかしそれは、この壮大な物語の序章にすぎなかった。やがて、スウェーデン、ロシア、
南アフリカという三点をつなぐ事件の驚くべき背景が浮かびあがってくる。
読みどころは、空き巣に入られては慌て、80才の父親が30も年が離れた女性と結婚すると言いだして困惑する人間味あふれるヴァランダーその人が、警察官としての
職務を逸脱して、ズールー族の殺し屋と心の交流をもち彼を匿ったり、娘を誘拐され、単身元KGBの諜報工作員と死闘を演じたりするところである。
冒頭こそ謎めいた失踪事件を捜査してゆく警察小説としての展開を中心にしながらも、次第に国際的なスケールの謀略をめぐる冒険活劇へと趣を変えてゆく本書は、
警察捜査小説の枠をはるかに超えた、南アフリカの人種差別問題をテーマとした、
最後の最後まで予断を許さないダイナミックな政治的陰謀小説である。