読書記録78

水時計 (創元推理文庫)

水時計 (創元推理文庫)

本書は、週刊新聞『クロウ』の記者ドライデンを主人公にした、ジム・ケリー
デビュー作にあたる現代英国本格ミステリーである。
’09年、「このミステリーがすごい!」海外編第15位にランクインしている。
時は11月、舞台はイングランドの東部の小都市イーリー。凍った川底から引き揚げ
られた車のトランクから銃で撃たれた上に首を折られた身元不明の男の死体が発見
される。その翌日、修復工事中のイーリー大聖堂の屋根の雨樋から白骨化した死体が出てくる。
この、小都市の日常をひっくり返すような連続変死事件に敏腕記者ドライデンは調査を始める。やがて1966年に起こった強盗および殺人未遂事件と関係があることが
分かるのだが、何者かの妨害の手がドライデンに迫ってくる。
シリーズの第1作らしく、ドライデン夫妻の悲惨な事故や、植物人間状態となってしまった彼の妻や、彼の日常の仕事ぶりなど背景説明にページが割かれているが、
ジム・ケリーの新人離れした筆致は、実はその中に巧みに伏線が忍び込ませてある。
タイトルの『水時計』に象徴されるように、本書では「水」が物語のそこかしこに
メタファーとして用いられている。そもそもイーリーという小都市自体がフェンズと
呼ばれる広大な沼沢地帯の一部なのである。
そしてクライマックスは、洪水を引き起こすほどの暴風雨がその地方に襲い掛かる
まさにその時、スリリングな真犯人との対決と、1966年の事件の真相、さらには
ドライデン夫妻に降りかかった悲劇も明らかになる。
本書は、現代風に脚色や味付けが施されてはいるものの、いわゆるフーダニットものをとことん追求した、謎解きを主眼とした21世紀版の「黄金期の探偵小説」である。