読書記録80

復讐法廷 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

復讐法廷 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

’84年、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門で第1位に輝いたリーガル
・サスペンス。
66才の倉庫会社事務員のデニス・リオーダンは、愛娘を強姦され殺害された。しかし犯人は法の抜け穴のため無罪放免となってしまう。彼の妻もそのショックと悲しみから衰弱して死んでしまった。彼は復讐のため、生まれて初めて拳銃を購入し、自ら憎むべきその黒人男を射殺して自首する。凶器と目撃者と理性的な自白がそろった有罪確実な状況で、リオーダンの弁護人に指名されたのは上司とけんかして検事局を辞職し、今は仕事にあぶれる28才の青年弁護士ベン・ゴードン。
リオーダンの望みは無罪になることではなく、法の不備を告発することにある。ゴードンはその願いをかなえた上で、無罪判決を得るという二重の困難に臨まなければ
ならない。
ストーリーは法廷場面に終始し、そんなゴードンの弁護のありようを、判事、検察官、
陪審員たちの動きと共にスリリングに展開してゆく。ゴードンは、圧倒的に不利な立場で、前代未聞の一か八かの「掟破り」の戦術に出る。
本書の読みどころは、法によって裁かれない者を私怨によって仇討ちすることが
果たして認められるかという問題と、そもそも犯人が無罪になってしまうという法体系の矛盾を、ゴードンの法廷での弁護士としての苦闘に加えて、人種差別問題や
マスコミや大衆の反応、陪審員たちの討論をつぶさに綴ることによって、鋭く告発しているところにある。
本書は、結末の陪審員たちの評決まで、目が離せない、手に汗握る、法廷闘争
そのものを描ききった問題作である。