読書記録10

悪意の森 (上) (悪意の森) (集英社文庫)

悪意の森 (上) (悪意の森) (集英社文庫)

悪意の森〈下〉 (集英社文庫)

悪意の森〈下〉 (集英社文庫)

’08年度「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」のベスト・ファースト・ノヴェル(最優秀
新人賞)をはじめ、アンソニー賞やバリー賞、マカビティ賞などの数々の最優秀新人賞に輝いた、女優・声優をしてきたという異色の作家、タナ・フレンチのデビュー作。
舞台はアイルランドの首都ダブリン近郊のノックナリー地区。そこでは20年前に3人の少年少女が森で行方不明になっていた。ただひとり発見された少年は記憶をすべて
失っていた。そして今、同じ森近くの古代遺跡発掘現場から12才の少女の他殺体が見つかる。20年前のくだんの少年ロブが今は殺人課の刑事となり、かつての身分を隠し、新任の女性刑事キャシーとコンビを組み捜査を始める。
ロブによる‘ぼく’という一人称叙述で進むストーリー構成で、‘ぼく’、キャシー、そして同じルーキー刑事のサムを交えて毎夜キャシーの家で推理が繰り広げられるが、これがなかなか前へ進まない。捜査の過程で‘ぼく’は、よみがえる20年前の忌まわしい記憶に苛まれる。
なにやら謎めいた少女の家族。とりわけ姉ロザリンドと父親ジョナサンの秘密。そして遺跡発掘現場上の高速道路建設計画とその反対運動。遺跡発掘現場の面々の
疑わしい言動。神秘で恐ろしげな森。20年前の事件。とミステリーとしての道具立てはそろっているが、 “タナ・フレンチトーン”とでも言うべき‘ぼく’の一人称の述懐は
あまりに独特で、とりわけ上巻は読破するのに時間がかかった。下巻にいたり、真犯人の逮捕と異常な動機に一気読みの様相を呈するが、では20年前の事件は一体
なんだったのかという消化不良感が残ってしまった。