読書記録15

果断 隠蔽捜査2 (新潮文庫)

果断 隠蔽捜査2 (新潮文庫)

本書は’05年の話題作『隠蔽捜査』の続編である。
’07年、「このミステリーがすごい!」国内編で第4位、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門では第9位にランクインしている。『隠蔽捜査』が’06年の「第27回吉川英治文学新人賞」を受賞したのに続いて、本書は’08年、「第21回山本周五郎賞」と
「第61回日本推理作家協会賞(長篇および連作短篇部門)」をダブル受賞している。
警察庁キャリアだった竜崎伸也警視長は、前作で警察上層部と息子の不祥事の両方で、隠蔽の誘惑にかられる事態に直面し、共に明るみに出すこと選び、警察官僚の
地位をはずされ、所轄署である大森警察署の署長に左遷されてしまう。そこで彼は、部下や地域の人々から変人扱いされながら署長決済の膨大な判子押し作業に
追われていた。
そんなおり、消費者金融強盗の犯人のひとりが、管内の小料理屋に銃を持って人質をとり、立てこもるという事件が発生する。竜崎は慣例を無視して現場に駆けつける。
現場での警視庁捜査1課特殊班SITと警備部に所属する突入部隊SATとの主導権
争い。説得に応じない犯人。やがて銃声を耳にした彼はSATの突入を下命、犯人は
射殺される。ところが、マスコミの思わぬ報道で、突入をめぐる責任問題が巻き起こり、さらには家庭を任せきりにしてきて自分では何もできない妻の緊急入院という難題が重なり、竜崎は公私共に窮地に立たされる。
複雑な縦割り社会である警察機構の圧力や、所轄の署長として従来の慣習に
従わせようとする副署長以下の部下たちの態度にも“どこ吹く風”とばかりにあくまで“原理原則”を遵守するおのれの信条を曲げない竜崎の言動は爽快・痛快で、
潔ささえ感じる。
さらに、本書ではいったんは解決したかに見えた事件が新展開をみせるという、
前作では希薄だったミステリー的な要素も色濃くなっている点も見逃せない。
本書は、竜崎というキャリア警察官の特徴的な個性を軸に据えながら、組織内の
主導権争い、捜査現場の緊迫感、意外性のあるプロットが用意された、背骨の通った硬派の警察小説である。