読書記録16

弁護側の証人 (集英社文庫)

弁護側の証人 (集英社文庫)

P・D・ジェイムズの『女には向かない職業』やジョセフィン・テイの『時の娘』などの翻訳でも知られる小泉喜美子の小説デビュー作。
’63年発表の伝説の名作が46年を経て復刊された。
ヌードダンサーのミミイ・ローイは財閥の御曹司に見初められてスピード結婚する。
だが玉の輿となるべき幸せな結婚生活はわずか2ヶ月で夫の父親の殺害によって
打ち砕かれた。真犯人は一体誰? 
一審の死刑判決をくつがえすべく、元同僚のダンサー・エダの紹介による新しい一見風采の上がらない弁護士とともに警察に働きかけ、ミミイは闘う。
ストーリーは、ミミイの一人称の「現在」の章と三人称の「過去」の章が交錯して、
‘わたし’ことミミイの心情や、富豪一家とそれを取り巻く人々、そして事件のあらましが語られる。
大富豪のもとに嫁いだ分不相応な女性の苦労話のように、なんのわだかまりもなく
スラスラ読み進んで、第十一章で、天地がひっくり返る。
なるほど改めて序章から一人称の章を読み返してみても、真相に何の破綻もない。
巧緻に張られた伏線の妙にただ恐れ入るばかりである。さらに、第十一章はそれだけでも異例な、現職の警部補が弁護側の証人に立つという迫真の法廷ミステリーの要素も併せ持っており、読み応え充分である。
それにしても“叙述ミステリー”は折原一のファンである私には慣れているはずだったが、これは正直言ってヤラれてしまった。
本書は、序章から第十章までがすべてトリックであり、衝撃の“大どんでん返し”が
待ち受ける、誰もが騙される“叙述ミステリー”の白眉である。