読書記録20

国境 (講談社文庫)

国境 (講談社文庫)

建設コンサルタント二宮と暴力団「二蝶会」の桑原が再びコンビで登場する『疫病神』の続編。今回は“知られざる隣国”北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)の実態を
描いた大作である。物語は前作よりストレートで、詐欺師を追いかけ、≪疫病神≫
コンビが北朝鮮へ潜入するというもの。
一回目は奈良県日朝友好議員連盟主催のチャーター便でパックツアーとして平壌へ。不自由な旅行日程の隙間を抜け出し、もう一歩というところで逃げられる。
そして二回目。今度は金にものをいわせて中国朝鮮族自治区から北部北朝鮮
不法入国する。さんざんな目にあいながらも詐欺師を捕まえることに成功したふたり
だったが、命からがら北朝鮮から出国し、詐欺師の日本の黒幕に迫る。
とまあストーリーは単純だが、小泉訪朝前の北朝鮮の実態は、巻末の膨大な
参考文献からもうかがえるように実にリアルだ。それが、ノンフィクションや
ルポルタージュでなく、またお堅い社会派小説とか、スパイ・冒険小説でなく、
ハードボイルドというかノワールというか極道エンターテインメント小説のなかに、
≪疫病神≫コンビの行動範囲としてあたりまえのように、しかし精緻に描かれている
ところに意味があると思う。
それにしても、北朝鮮というのは何という国家なのだろう。作品中の桑原の言葉の数々から分かるように思わず眉をひそめたくなる。
この北朝鮮という特殊な舞台で、前作ほど強烈なドツキ、ドツカレはないものの、
≪疫病神≫コンビの絶妙なコンビネーションは、個性豊かな脇役陣も手伝って、
時には笑いをかみ殺し、時にはハラハラ・ドキドキして、文庫にして831ページ
にもなる大長編なのに、休むことなくページを捲らせてくれる。