読書記録28

さむけ (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-4)

さむけ (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-4)

ハードボイルド小説の世界で、ダシール・ハメットレイモンド・チャンドラーの後継者といわれているロス・マクドナルドの、私立探偵リュウ・アーチャーを主人公に据えた、
自身最高の力作と述べている作品。
はじめは新婚旅行中に失踪した新妻探しの依頼だった。ところが、彼女が半狂乱で
見つかり、殺人事件の重要容疑者とされたことから事態は思わぬ展開をみせる。調査を進めるアーチャーの前に20年を経た過去の2つの事件が関ってくるのだった。
関係者と会う彼の目に映るのは、親子の確執、男女の愛憎、社会的地位の固執
といった、さまざまな登場人物たちのどろどろとした人間ドラマである。
過去と現在が複雑に交錯し、数多くの人間が関っているため、読み進めるには多少
根気が必要だったが、3つの事件の真相を追うアーチャーの内面は、本書の舞台
であるパシフィック・ポイントに濃くたれこめる霧に象徴されるように、悲しい詠嘆や
甘い感傷を捨て、あくまで孤独で諦観に満ちている。
本書は、ストイックで虚無的なアーチャーの一人称で綴られるのだが、真犯人探しの本格趣味もあり、驚愕の真犯人と、タイトルである“さむけ”を感じさせる最後の一行が読者を魅了してやまない、<ロス・マク・ハードボイルド>の金字塔である。