読書記録57

震える山 (講談社文庫)

震える山 (講談社文庫)

C・J・ボックスによる“現代のウェスタン”と称される、ワイオミング州猟区管理官
<ジョー・ピケット>シリーズ邦訳第4弾。本書は’05年の作品だが、ボックスと
いえば、この後に書いたノン・シリーズの『ブルー・ヘヴン』が、アメリカにおける
ミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」’09年度ベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)を受賞している。今、アメリカで最ものっているミステリー作家のひとりである。
さて、本書だが、ジョーの尊敬する先輩の猟区管理官が大型の銃で自殺と思われる状況で死亡し、ジョーは臨時に彼の任地・花形地区ジャクソンホールに単身赴任する。そこはジョーのホームタウンである小さな町サドルストリングとは何もかも異なる、
アメリカ有数の国立公園の入り口で、広大な大自然を擁する山岳リゾート地であった。
そこでジョーは、非協力的な地元の保安官、特別な家畜の安全な肉を提供する
特権的コミュニティ建設をもくろむ強引で高慢な実業家とジョーを誘惑するその妻、
肉食を糾弾する動物保護運動家、時代遅れといわれる老アウトフィッターらと出会う。
しかしジョーの頭の中にはタフで有能だった先輩猟区管理官の死がこびりついて
離れなかった。残した家族の心配をし、勝手が違う新任地での仕事や難題をこなし、
彼らのさまざまな思惑に戸惑いながらも、死の真相を探ろうとするジョーにも危機が
ひたひたと迫る。物語の大半は、そんなジョーの行動や留守宅の家族に起こる不審な出来事、ホームタウンの元保安官のもとに東部から現れた謎の男などのエピソードが綿々と綴られるのだが、ジョー・ピケットという男の“個性”が存分に描かれていて、
飽きたり退屈な思いをしたりすることなく読者はずっと惹きつけられ、最後の最後に
明らかになる恐ろしい陰謀に目を開くのである。
本書は、雄大な山岳地帯を舞台にしたクラシックな男の冒険譚であると共に、
昨今話題の“食肉”の問題も取り上げた、独創的な物語である。