読書記録５９

州検事(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

州検事(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

’０８年、ワシントン・ポスト・ブックワールドやブックマーク・マガジンなどの
年間最優秀賞に選ばれ、ヴァージニア州ピープルズ・チョイス長編小説賞を受賞した、現職の巡回判事がリアルかつ絶妙に放つリーガル・サスペンス。
メイスン・ハントは、ヴァージニア州リッチモンドで弁護士をしていたが、パトリック郡にある小さな町スチュアートの州検事に栄転する。愛する妻と娘に囲まれ仕事も順調に見えたのだが、彼には２０年前の学生時代に誰にも言えない暗い過去があった。
メイスンの兄のゲイツが恋敵を撃ち殺してしまい、兄を庇うため証拠隠滅とアリバイ
工作を行ったのだ。
ストーリーは、麻薬取引で４４年の刑を食らい、服役中の兄ゲイツが、その事件を
メイスンの仕業であると蒸し返して彼を窮地に追い込み、自らの地位と愛する家族を守るため死力を尽くすメイスンを描いていく。
このメインのストーリーに、妻の交通事故死、思春期の娘との難しい父親としての
付き合い、黒人でゲイの同僚の検事補の差別問題、田舎町に降ってわいた大企業の工場の進出といった、さまざまな現代アメリカが抱える問題が複雑に交錯し、メイスンを悩ませ、一気にクライマックスへと突き進む。
本書は、州検事であるメイスンが法廷に立って闘うシーンはなく、彼と彼を取り巻く人々、母親・娘・同僚の検事補・刑事・弁護士・実業家、そしてどうしようもないワルの兄が関り繰り広げられる、単なるリーガルサスペンスを超えた深みのある人間ドラマ
である。