読書記録60

死刑判決〈上〉 (講談社文庫)

死刑判決〈上〉 (講談社文庫)

死刑判決〈下〉 (講談社文庫)

死刑判決〈下〉 (講談社文庫)

リーガル・ミステリーの巨匠スコット・トゥローの文庫上・下巻779ページに及ぶ大作。
2001年4月、10年前レストランで3人の男女を撃ち殺し冷凍庫詰めにしたとして
死刑判決をうけたロミーが、執行の33日前になって無実を訴え出る。
ストーリーのメインフレームは、彼の公選弁護人に指名された弁護士アーサーと、
もともとはロミーに死刑を宣告した、のちに悪の道に染まり服役していた元判事の
ジリアンのカップルVS刑事のラリーとその不倫相手でもある検察官ミュリエルという
構図で、「わたしこそが真犯人だ」という新たな証人が現れ、ロミーの冤罪かやはり
有罪か、彼らの激しい攻防が描かれる。
物語は、現在(2001年)からさかのぼって事件発生当時(1991年)と、上述の4人
それぞれの多視点で交互に語られ、多面性と複雑さを醸し出している。
また、事件そのものを追いかけると同時に、それぞれのカップルの、法と情の間で
揺れ動く恋愛模様がたっぷりとくどいくらいに展開される。
この、リーガル・サスペンスとしてはやや手垢がついた感があるテーマを持ってきて、それをどう料理するかと興味を持って読み始めたが、さすがトゥロー、10年の時を
経て再び交錯する二組のカップルの、多少の濡れ場はあるものの、他の作品に
見られるような文芸趣味を抑えていて読みやすく、といっても通俗エンターテインメントに堕すこともなく、重厚で上質な人間ドラマに仕上げている。
本書は、現役の弁護士であるトゥローが、実務に裏づけされた正確な法廷手続きを
ベースにしつつ、『推定無罪』から15年経って円熟味を加えた逸品である。