読書記録63

バイバイ、ブラックバード

バイバイ、ブラックバード

本書は、もともと’09年5月から’10年2月にかけて1話につき50名の、抽選で
当たった読者だけのもとに郵便で届けられた「ゆうびん小説」5つの短編に、
書き下ろしの1編を最終話として加えられた連作短編集である。
5股をかけていた星野一彦は、どうやら借金苦に陥り、2週間後に<あのバス>と
呼ばれる送迎者に乗り、地獄に近いどこかへ連れて行かれる事が決まっており、
そこでお目付け役の身長180センチ、体重180キロの巨漢女性繭美を偽りの婚約者ということにして、5人の女性たちに別れの挨拶に行くというお話である。
前作『オー!ファーザー』が4人もの父親がいる青年のお話だったが、今回は、5股を
かけた男が登場し、傍若無人な巨漢女との言動に5人の女性たちはさまざまな反応を示す。
独特の浮遊感のある人を喰ったような、ありえない摩訶不思議な設定、
そして軽妙洒脱な会話、いつもの伊坂ワールドに思わず引き込まれ、思わずサクサク読み進んでしまう。
本書は、極上の会話劇であり、伏線の利いたミステリーとも言えるし、恋愛小説の要素もある「いいお話」である。それは、5人の女性たちが別れの悲しみだけでなく、別の
悲しみも持っているのだが、星野と繭美が別れの挨拶に行ってそれぞれの出来事があり、何となく笑える感じで、悲しみを前向きでプラスなものに変えてゆく過程がある
からだろう。
5人への別れの儀式が終わった後、星野は約束どおり<あのバス>に乗り込むの
だが、最後の最後に繭美がオンボロのオートバイで彼を追いかけようとして、
かからないエンジンをキック、キック、キックする場面で終わっているが、その終わり方が本を閉じたあとまでも読者の心を熱く焦がす。