読書記録78

ラットマン (光文社文庫)

ラットマン (光文社文庫)

’08年、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で第4位、「このミステリーが
すごい!」国内編では第10位にランクインした、今最も“旬”な作家・道尾秀介
本格ミステリー。
姫川亮(ひめかわりょう)は結成14年目になるアマチュア・ロックバンドのギタリスト。彼は23年前、小学1年生の時にふたつ違いの姉と、父を相次いで失っていた。
父は病死だったが姉は事故死だった。しかし彼はそれは殺人ではなかったかと思っていた。
そんなおり、バンドの練習するスタジオが年内で閉鎖すると知らされたメンバーは、
クリスマスのコンサートに向けて最後の練習を行ったが、その最中に悲劇が起きた。同じスタジオにある密室状態の倉庫でバンドの元ドラマー、小野木ひかりが倒れた
大型アンプの下敷きになって死んだのだ。
タイトルの「ラットマン」とは、人間の思い込みを利用した、先入観によって、人の顔がネズミに見えてしまうという一種の「騙し絵」のことだが、本書で道尾秀介は、読者のみならず、姫川までも虚構の迷路に迷い込ませるという技巧を尽くしている。彼の心の中で過去と現在の事件が複雑に絡み合い、複数の人物の思惑と小さな発見でそれまで築いてきた思い込みが逆転するのだ。
本書は、二重底三重底にも及ぶ真相と、それぞれの伏線がピタリと見事に張られた
<道尾ミステリー>の本流といってもいい作品だが、その伏線の妙とサプライズ
・エンディングの切れ味が光ると同時に、姫川の哀切な青春小説としても読める秀作である。