読書記録92

催眠〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

催眠〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

催眠〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

催眠〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

のちに正体は判明したが、当初はまったくの匿名作家のデビュー作として’09年夏のスウェーデン出版界の話題を独占し、本国発売前に20カ国以上に翻訳権を売った
という、文庫にして上・下巻910ページに及ぶミステリー大作。
NHK・BSの「週刊ブックレビュー」9月11日(土)の放送で翻訳家の羽田詩津子さんが「おすすめの一冊」として紹介なさったので、ご覧になった方もいらっしゃるだろう。
ストックホルム郊外で起きた一家惨殺事件。父親は運動場のトイレで、母親と5才の次女は自宅で、メッタ刺しで殺された。かろうじて息があったものの15才の長男は
意識不明の重傷を負う。23歳の長女は独立して家を出て行方不明。国家警察の
ヨーナ・リンナ警部は、その長女を救うため生き残った長男から目撃談を得るため、
精神科医のエリックに催眠をかけてもらい証言を引き出そうとする。
エリックは10年前のとある事件から自らの催眠療法を封印していたが、長女を救う
ためと懇願され、禁断の封印を解く。ところが催眠状態の長男からは衝撃的な言葉が飛び出す。なんと両親と妹を残虐な手口で殺したのは自分だと言うのだ。
さらにその直後からエリック一家に起こる不可解な出来事。ついに致命的な持病を
持った息子ベンヤミンが誘拐されてしまう。犯人は看護師を殺して病院を脱走した
くだんの少年か・・・。事件の鍵は10年前のエリックの忌まわしい過去にさかのぼる。
映画を観ているかのような臨場感とスピード感、たたみかけるスリルの連続、
リンナ警部やエリック夫妻をはじめとする登場人物たちの心を襲う不快感と恐怖、
悪夢の連鎖、とてもページを捲る手が止まらない。
本書は、ミステリーデビュー作とは思えないラーシュ・ケプレルの見事なストーリー
・テリングが冴えを見せる、一気読み必至のページ・ターナー・サスペンスである。