読書記録93

既死感〈上〉 (角川文庫)

既死感〈上〉 (角川文庫)

既死感〈下〉 (角川文庫)

既死感〈下〉 (角川文庫)

本書は、’98年度「カナダ推理作家協会最優秀新人賞」を受賞した、キャスリーン
・レイクスのデビュー作である。
‘わたし’ことテンペ・ブレナンは、モントリオールケベック州法医学研究所の法人類学者。骨の鑑定を行い、身元を割り出す仕事に就いている。1994年の6月、神学校の敷地から四肢と頭部を切断されてほぼ白骨化した死体が発見され、‘わたし’の
出番となる。骨の鑑定を進めるうちに、‘わたし’はほぼ1年前にも似たようなケースを扱ったことを思い出す。やがて新たな殺人事件が発生し、‘わたし’は連続殺人の疑いを抱くが、刑事たちは耳を貸そうともしない。‘わたし’は独自に捜査を始めるのだったが、それは、モントリオールの短い蒸し暑い夏の悪夢の始まりだった。危機は‘わたし’の親友にも、そして‘わたし’の愛する娘や‘わたし’自身にも迫る・・・。
本書の読みどころはふたつ。ひとつは著者レイクス自身が、全米でわずか50人しか正式に認定されていない骨鑑定を専門にする法人類学者であることから、リアリティに満ちた鑑定の様子と描写である。ノコギリとそれが骨に残す傷跡の鑑定から、微蛍光X線分析法、法歯科学による歯形の分析、血液の凝集反応など精緻なラボの鑑定の過程には圧倒される。
もうひとつは、刑事たちがあてにならないなかでの、‘わたし’の孤独な闘いである。
ことに終盤は、恐怖と危機の連続で、ようやく見えそうになった真犯人の影と恐怖に
おびえる‘わたし’心理状態が、くどいくらいに描かれる。
そしてたたみかけるサスペンスの連続。
本書は、女性作家の手による作品らしい、典型的なヒロインによる“一人称スリラー”
である。