読書記録109

のぼうの城 上 (小学館文庫)

のぼうの城 上 (小学館文庫)

のぼうの城 (下) (小学館文庫)

のぼうの城 (下) (小学館文庫)

和田竜(わだりょう)の、小説としてはデビュー作にあたる本書は、’07年12月に刊行されるや一躍ベストセラーとなり、’08年上半期「第139回直木賞」の候補作となり
(ちなみに受賞作は井上荒野の『切羽へ』)、’09年「第6回本屋大賞」第2位につけた(ちなみに第1位は湊かなえの『告白』)、一大時代エンターテインメントである。’11年には野村萬斎主演で映画化も決定している。
天下統一を目前にした豊臣秀吉は、関東の雄・北条氏を討つべく、小田原征伐
乗り出す。その中に北条方の支城、武州忍城(おしじょう)があった。秀吉は寵臣
石田三成に2万の兵を与え総大将として派遣する。守る忍城方は僅か5百騎。
この物語は、圧倒的に不利な状況にあってついにただひとつおちなかったこの城の
攻防戦を描いたものである。
ここにきわめて個性的な忍城の臨時城代・成田長親(なりたながちか)が登場する。
周りからは「でくのぼう」を縮めて「のぼう様」と呼ばれる彼は、大男でありながら、
得意なのは田植田楽踊りくらいで坂東武者にあるまじく、何をやってもダメであるが、不思議と同僚の家臣や領民の人望はあつい。彼は密かに交わされていた降伏の予定を翻して三成軍と戦う決意をする。数の上では有利なはずの三成軍がてこずる前半の壮絶な攻防戦は、ページを捲るのがもどかしいほどの読みどころである。
また水攻めにあい、絶体絶命のピンチに立たされた長親がそれを打ち破る「秘策」
として、舟を出しその船上で踊る得意の田植田楽踊りのくだりは、なぜか涙し胸を
打たれる。
本書は、かなり史実に基づいたフィクションであろうが、成田長親という、戦国の世に
あって珍しい英傑像をフィーチャーした、感動的なキャラクター小説である。