読書記録110

ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム

’08年、「このミステリーがすごい!」国内編で第2位に、「週刊文春ミステリーベスト
10」国内部門で第3位に堂々ランクインした連作短編集。
’09年度「第30回吉川英治文学新人賞」、「第62回日本推理作家協会賞・長編
及び連作短編集部門」をダブル受賞。本書で柳広司は大ブレイクした。
太平洋戦争突入前の昭和10年代。結城中佐が独自で陸軍内でつくったスパイ養成機関“D機関”。その5つのエピソードが語られる。
ジョーカー・ゲーム憲兵隊が暴けなかった親日派外国人のスパイ容疑を調査する。
『幽霊−ゴースト−』横浜の英国総領事館公邸に出入りする機関卒業生による調査の顛末。
『ロビンソン』ロンドンに潜入し、英国諜報機関に捕らえられた機関卒業生の脱出行。
『魔都』上海に潜入し、当地の派遣憲兵隊大尉の真の姿を暴く。
『XX−ダブル・クロス−』二重スパイの証拠固めの最中に起こった密室殺人の真相は・・・。
これまでのエスピオナージュものの長編では、映像化しやすい超人的なヒーローが
スパイ必携の大道具・小道具を駆使して敵の目をかいくぐって極秘情報を手に
入れたり、自国に潜入したスパイを監視したり倒したり、場合によっては要人警護
・確保・暗殺など手に汗握る諜報戦やアクション、スケールの大きな国際謀略が売り物だった。
ところが本書においては、結城中佐という、きわめて個性的で強烈なキャラクターを
もって、「死ぬな、殺すな」という戦時においては逆説的な“D機関”というスパイ機関
そのものの存在をフィーチャーした、謎解きの興趣に満ちた、パンチとひねりの
効いた、かつ贅肉をそぎ落とした文章で綴られ、ストレートに読みきれるハイレベルな短編の集合体にしたところが大きな特長であろう。