読書記録111

ダブル・ジョーカー

ダブル・ジョーカー

柳広司の、『ジョーカー・ゲーム』の続編となる連作短編集。’09年、「このミステリーがすごい!」国内編、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門共に第2位に輝いた。
前作は、角川書店の「野性時代」掲載分2編、書き下ろし3編からなる5編だったが、本書では、同誌掲載分4編、書き下ろし1編からなっている。
『ダブル・ジョーカー(「野性時代」掲載時の『敵手』改題)』“D機関”のライバル
“風機関”との親英的な元外交官の機密漏洩案件をめぐっての競い合い。
蝿の王』北支の前線を舞台に共産主義シンパの軍医が戦場で行う意外な
機密連絡法とは。
仏印作戦』仏印と東京とで交わされる暗号通信にひそむ罠と闇。
『柩』ベルリンの列車衝突事故で命を落とした日本人の男は欧州全土に張り巡らした“D機関”のスパイ・マスターだったのか。
『ブラックバード』ロサンゼルスに渡った「二重経歴(ダブル・カバー)」の“D機関”スパイ仲根の行き着く先は。
本書では、巻末の書き下ろし『ブラックバード』を除いて、“D機関”卒業生のスパイが最後まで(生きて)登場しない、また、その開設者結城少佐の若き日の一端が
明かされる『柩』をはじめ、いずれも前作にも増して凝ったプロットで、二重三重の
ひねりを一層加えた逸品揃いである。また読者は、スパイたちの前作をしのぐ、世界を股にかけた究極の頭脳戦をたっぷり堪能できて鮮やかに騙されること請け合い
である。
最後に日本軍の真珠湾奇襲攻撃があり太平洋戦争に突入して、“D機関”スパイの
存在意義が無くなってシリーズが完結してしまったのはまったくもって惜しい。