読書記録2

封印された悪夢 (ハヤカワ文庫NV)

封印された悪夢 (ハヤカワ文庫NV)

本国アメリカで、出す作品すべてがベストセラー・リストに上がり、“10割打者”の異名を持つフィリップ・マーゴリンの’78年のデビュー長編。惜しくも受賞には至らなかったが、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」ベスト・ペイパーバック・オリジナル(最優秀オリジナル・ペイパーバック賞)の候補作となった。
1960年の感謝祭の翌日11月25日にアメリカ・ヴァージニア州ポーツマスで裕福な家庭の成績優秀な高校生カップルが公園でデート中何者かに襲われた。男子生徒は無残な刺殺死体で発見され、女子生徒は年も改まった頃、陵辱された死体となって
高速道路脇にうち捨てられていたのが見つかる。地元を震撼させるこの事件に、初め彼らの同級生とその不良の兄が捜査線上に浮かぶが証拠不十分で起訴には
至らなかった。
何年か経ち、ふとしたきっかけで、またこのふたりの兄弟の容疑が浮上する。
事件発生当時から執拗に捜査を続けるシンドラー刑事は、当時事件を目撃した
かもしれない女子高生、今は結婚して子供までいるエスターの“封印された記憶”を
呼び起こすべく、精神科医ホランダーの元で催眠療法を受けさせるのだった。
マーゴリンの緻密な取材力と自身刑事弁護士であったという経験から、第三部で展開されるリアルな催眠療法の顛末と、第五部の迫真の法廷場面は本書の読みどころ
である。さらにシンドラー刑事と弁護士、検事補たちの行動と攻防や、一見事件には
無関係と思われるサイドストーリー、小説の冒頭で現れる昔の真実を知る男などが、微妙に絡み合って思いもよらないラストに向かってゆく。
本書はそのストーリーの面白さでぐいぐい引っ張ってゆく圧倒的なリーダビリティー
持った、さすがは“10割打者”と思わせるページ・ターナーである。
マーゴリンの大ファンとしては、何故日本で人気が出ないのか、何故’04年12月発行の『女神の天秤』(講談社文庫)以降作品が翻訳されないのか残念でしかたがない。