読書記録23

鎮火報 (双葉文庫)

鎮火報 (双葉文庫)

’02年、『それでも、警官は微笑う』で、講談社が主催する新人ミステリー作家の
登竜門「第25回メフィスト賞」を受賞してデビューした女性作家・日明恩
(たちもりめぐみ)の2作目となる青春消防ミステリー。
‘俺’こと大山雄大(おおやまたけひろ)は20才。身長は2メートル近く、骨格から
がっしりとしてデカい。誰もが本名ではなく(ゆうだい)と呼ぶ。元不良少年だが、
売り言葉に買い言葉で一念発起して高い倍率の試験に合格、1年間の研修ののち
東京は赤羽台消防出張所に配属されて半年の消防士だ。なったはいいが使命感は
薄い‘俺’は「楽して得するためだけに消防士になった」とうそぶき、交替勤を上がって9時5時の事務職に異動するのが夢だ。
そんな‘俺’の9月の10日間を一人称で綴ったのが本書である。メインの事件は、
不法滞在の外国人が暮らす古い木造アパートで連続する放火事件。入国管理局と
警察の手入れが終わりかけたタイミングで火が出て、しかも消火のための放水で炎がさらに広がるという異常な火災。‘俺’はひきこもりの中年男・楠目守(くずめまもる)の情報収集能力の助けを借りて真相を探る。
憎まれ口ばかり叩く‘俺’だが、火事も事件も正面突破、実はかなり義理人情に篤く
責任感のある熱いハートの持ち主として描かれ、そんな‘俺’が感動のラストに
向けて、命がけの消防という仕事を通して成長してゆく。
また、守をはじめ、脇を固める登場人物たちもそれぞれにキャラが立っていてユニークである。さらに消防というお仕事の裏側が克明に取材されていて、情報小説としても
充実している。
本書は、「青春」+「キャラ立ち」+「成長」+「ミステリー」+「社会派」+「情報」が
厚いボリュームのなかに熱くてんこ盛りになった、なんとも贅沢な作品である。