読書記録24

埋み火 (双葉文庫)

埋み火 (双葉文庫)

日明恩(たちもりめぐみ)の『鎮火報』の続編となる青春消防ミステリー。
『鎮火報』の事件から1年半後の春、‘俺’こと赤羽台消防出張所の消防士・大山雄大(たけひろ、通称ゆうだい)は、身長が1cmのびて191cmの22才。人事異動で
新たに配属された年上の新人・香川に手を焼きながら、相変わらず9時5時の事務職への異動を夢見ながら命がけの職務をこなしている。
独居の、そして夫婦ふたりの老人世帯で失火と見られる火災が連続していた。
‘俺’は、不幸な偶然が重なって火のまわりが異常に早かったこと、なぜか隣近所に
延焼がない状態での火事、そして焼死した老人たちがいずれもこの先の人生に希望を失っていたことに不審を抱き、例によって勤務時間外に調査を始める。その過程でひとりの中学2年生・福島裕孝(ゆたか)少年と老人たちとの関係にたどりつく。
少年は、「要らないんだ、僕もあの人たちも」「本物の僕って、どんな人なんだろう」
「僕って二人(両親)にとって、本当に都合の好い子だよね」などと両親との親子関係に苦しんでいた。同じように息子や娘や親戚との関係に悩む老人たちの絶望的な孤独に一連の火災の真相が隠されていた。
読みどころは第9章で、あわや火事かという寸前で、24時間勤務明けの‘俺’が我も忘れて大奮闘し、それを防ぐ場面だ。「生活の安定だけが目的で地方公務員たる
消防士になった」はずの‘俺’の、実は義理人情に篤く、他人のピンチには矢も盾も
たまらず飛び込んでゆく熱きファイアマン魂には誰しも胸をうたれる。
本書は、深刻ともいえる「老人問題」、そして「親子の問題」に直面して、さらにもう一歩成長してゆく若き消防士を描いた秀作である。