読書記録25

沈底魚 (講談社文庫)

沈底魚 (講談社文庫)

’07年、「第53回江戸川乱歩賞」を受賞した、公安警察の諜報戦を描いた国際謀略
ミステリー。’10年8月に文庫化されるやたちまち重版されるほどあらためて人気が
再燃した。
「中国に機密情報漏洩、現職国会議員が関与か」ある大手新聞に記事が載った。
警視庁公安部外事課で中国と北朝鮮の事案を扱う二課では、上層部は集められた
捜査員たちの前ではじめはガセとしていた。それが翌日、警察庁の外事情報部から
異形の女性理事官・凸井(とつい)が着任してきて一転して捜査を行うことになる。
所属する‘私’こと40才の一匹狼の警部補・不破(ふわ)は捜査員としてこの事案に
関ることになる。
容疑がかかる与党の大物政治家、そのメッセンジャーではないかと目される‘私’の
かつての同級生、二重スパイの疑いをもたれる‘私’の相棒で何かいわくありげで暗い若林、二課で‘私’の先輩であり一派を形成する型破りで豪放磊落な五味(ごみ)、
中国大使館員の亡命希望者、彼らの中に混じって、上司であるくだんの理事官凸井を中心にした‘私’の暗闘が描かれてゆく。
とにかく、独特のコードネームが乱立し、次々に急展開で二転三転を繰り返す
ストーリーに、誰が味方で、何が真相なのか、読者は振り回されるほどである。
「乱歩賞」の「400字詰原稿で350枚〜550枚(超過した場合は失格)」という応募
規定のせいか、詰め込みすぎの感は否めない。本書は、近年の受賞作にはない、
エスピオナージュもので切れ味のいいスパイストーリーであることは間違いないだけに、もっと登場人物の人物造形の掘り下げや事件の背景状況の説明などにページを費やすことができたらと、惜しい気がする。