読書記録28

リトル・シスター

リトル・シスター

ロング・グッドバイ』、『さよなら、愛しい人』に続く、村上春樹による新訳レイモンド
・チャンドラー第3弾。7冊あるマーロウものの長編の5作目にあたる、’49年の作品。本書は『かわいい女』として’59年に清水俊二によって訳出されているが、私は読んでいないので、比較ではなく純粋に『リトル・シスター』の読後感想を綴る。
ロサンゼルスの私立探偵フィリップ・マーロウのもとに、中西部カンザス州の地方都市マンハッタンから来たオーファメイという若い娘が訪れる。彼女は20ドルで行方不明の兄・オリンを捜して欲しいと言う。娘の容姿・態度・話に興味を持ったのか、それとも単なる気まぐれか、マーロウが規定報酬の半額で引き受けるところからこの物語は幕を開ける。早速オリンの最後の立ち寄り先である簡易アパートに足を運んだマーロウは死体に出くわす。さらに調査を続けるとまたもや男の死体が。やがてマーロウは、
いわくありげな女優や映画エージェント、ギャング、不審な医師らが棲息する虚飾の街ハリウッドの“裏通り”に迷い込むことに・・・。
本書は、オリンの目論見や、オーファメイの真の意図は明らかになるものの、展開が
早く、人と事件が複雑に入り組んだプロットで、「黒幕の存在」とか「誰が誰を殺したか」というような謎解きのカタルシスは得られない。
どうやら、その観察眼、含みのある独白、女優や警察や依頼人などとの間のジョークと皮肉を交えたキレのいい会話といったような、あまりにも有名なハードボイルド
私立探偵フィリップ・マーロウの“存在感”と、それによって作品全体が醸し出す独特のムード・雰囲気で読ませる、ブランド小説であるようだ。
村上春樹は<訳者あとがき>の結びで「このあともマーロウものの翻訳を更に続けていきたいと思う。」と言っているが、私としては個人的にシリーズ第1作で、現在絶版
・入手困難な、マーロウ初登場の『大いなる眠り』(’39年)を訳してもらいたいと思う。