読書記録29

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

’73年、ロバート・B・パーカーのデビュー作である『ゴッドウルフの行方』で始まった
ネオ・ハードボイルド、ボストンの私立探偵<スペンサー>シリーズは、私が調べた
ところでは’10年1月18日にパーカーが逝去するまで38作に及び、すべて邦訳
されているが、本書は’81年発表(邦訳は’82年)の第7作。
日本では、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」’77年度ベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)を受賞した第4作の『約束の地』
(’76年、邦訳は’78年)をしのぐ人気を持つ作品である。
パティ・ジャコミンと名乗る女からスペンサーが請けた仕事は、離婚した夫メルが奪った息子・15才のポールを連れ戻すことだった。首尾よく成功するスペンサー。3ヵ月後、パティは強引に再びポールを自分のもとに置こうとするメルの企みを阻止したいと再びスペンサーに頼る。そして暴漢が彼らを襲う。
スペンサーは、ポールが、対立する両親の“駆け引き”の材料となっていて、
“育てられ”ておらず、TVばかり視て暇をつぶす、何事にも関心を示さない少年であることに気づく。
スペンサーはある決心をする。身支度からジョギング、ウェイト・トレーニング、家造りの大工仕事と、ポールに対するマン・ツー・マンのスペンサー流“教育”が始まる。
やがてポールにも成長の兆しが・・・。スペンサーは仕上げにメルの悪事とパティの
悪癖を暴き、ポールに両親から“解放”された“自立”の道を歩ませる。
決して長くはない、ストレートな物語で、暴力シーンやお色気シーンも垣間見えるが、
メインの、スペンサーとポールとの熱いハートの交流、そしてスペンサーのタフな大人の男のやさしさが読むものの心を動かす。
本書は、「これを読まずしてスペンサーは語れない」ほどの、ネオ・ハードボイルド
としては異色作ながら、このシリーズ屈指の名品である。