読書記録41

ブラックランズ (小学館文庫)

ブラックランズ (小学館文庫)

英国生まれで南アフリカ共和国育ちのベリンダ・バウアー女史。ジャーナリスト、
脚本家としてキャリアを積み、本書で作家デビュー。
その本書で、英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)賞」
’10年度ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)を受賞するという栄誉に輝いた。
舞台はイングランド南西部の、ヒースの茂る荒れ野に囲まれた田舎エクスムーア。
主人公の12才の少年スティーヴンはかれこれ3年にも渡ってシャベルで荒れた地面を掘り返している。彼は4人家族で、祖母とシングルマザーの母親、5才の弟
デイヴィーと住んでいる。
19年前、彼の叔父つまり母親の弟が連続児童誘拐殺人犯に連れ去られたまま、犯人は捕まったが遺体は発見されていなかった。そのため、被害者の母である彼の祖母は息子の帰りをいつまでも待ち続ける「かわいそうなピーターズさん」となって心を
閉ざし、彼の母親もまた鬱屈した感情を抑えることができない。
ティーヴンは、こども心にも叔父の遺体が見つかり、事件に決着をつければ、
ぎくしゃくとしてバラバラの家族の傷が癒えると信じてどこかに埋められている遺体を捜しているのだ。
やがて彼は遺体発掘の重要ヒントを得ようと、服役中の殺人犯エイヴリーと手紙の
やりとりを始める。しかしそれによって18年に及ぶ刑務所暮らしのエイヴリーは、
眠っていたサイコパスの本性が甦り、思い切った行動に出る。そして物語は37章から39章のクライマックスを迎える・・・。
とにかく、主人公のスティーヴン、殺人犯のエイヴリーからステーヴンの祖母、母親、
親友のルイス、そして脇役・端役に至るまで、登場人物たちの心の動きの描写が秀逸である。
さらに短い章立てで映画のカットバックのように進むストーリー展開もあいまって、
臨場感抜群で読者は思わず彼らに感情移入して物語にのめりこんでしまうこと間違いない。
本書は、ひたむきに家族の再生を願う少年スティーヴンの、健気で一途な思いが深く胸をうつ秀作である。