読書記録42

邪悪 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

邪悪 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

セント・マーティンズ社とMWA共催の「第1回ミナトーブックス・ミステリコンテスト」で
第1席を獲得した、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家
クラブ)賞」の’10年度ベスト・ファースト・ノヴェル(最優秀新人賞)受賞作。
また、アガサ賞、アンソニー賞、マカヴィティー賞の各新人賞にもノミネートされた、
ステファニー・ピントフのデビュー作である。訳者はT・ジェファーソン・パーカーの諸作の翻訳で有名な七搦(ななからげ)理美子。
1905年、ニューヨークの北の郊外ドブソン。警察官が署長と‘わたし’こと30才の
刑事サイモン・ジールのふたりだけのこの静かな町で、11月7日、実に1893年の冬に起きて今だ未解決という農夫の射殺事件以来という、若い女性の惨殺事件が
起きた。現場へ駆けつけ初動捜査を行った‘わたし’のもとへ、コロンビア大学法学部教授で仲間と犯罪学研究所をひらくシンクレアなる52才の男が、電報を寄こしたうえで訪れる。彼は、自分が3年間にわたって研究対象としてきた、今でいう社会病質者(ソシオパス)のフロムリーという男こそ最重要容疑者だと言う。
ストーリーは6日間の‘わたし’とシンクレアの、困難を極める捜査が描かれる。ようやく指紋による鑑別方法がロンドンのスコットランド・ヤードで採用されたばかりのこの時代に、被害者の日常や人間関係を調べて容疑者を洗い出すという地道な捜査と並行
して、行方不明のフロムリーの捜索が行われる。この6日間に状況は、新たな死体
発見を含めて二転三転、エピローグを入れても470ページの393ページに至って
またしても殺人が・・・。
本書は、過去の出来事で心に深い傷を負った‘わたし’とエキセントリックなシンクレア率いる犯罪学研究所の面々が異彩を放つ、20世紀初頭の緊迫感と不気味さを
漂わせながらもどこかノスタルジックな秀作である。