読書記録54

逸脱者(上) (講談社文庫)

逸脱者(上) (講談社文庫)

逸脱者(下) (講談社文庫)

逸脱者(下) (講談社文庫)

グレッグ・ルッカの、“世界最強のハードボイルド”という惹句が付けられた、プロの
ボディーガード(パーソナル・セキュリティ・エージェント)、<アティカス・コディアック>
シリーズの第5弾。本書から訳出が古沢嘉通から飯干京子にかわり、そして下巻
・第二部より、『哀国者』『回帰者』と続くこのシリーズの後期三部作が始まる。
前作『耽溺者−ジャンキー−』の事件終結直後の2月からその年の秋に至るまでの
物語である。
上巻・第一部:仲間とセキュリティ会社を設立した‘わたし’ことアティカスは、当初こそ倒産の危機に瀕したものの、英国の公爵令嬢で子どもの人権擁護唱道者の警護の
成功と、彼らのことが書かれた本がベストセラーになったことで、メディアの注目を
集め、業績がはねあがる。そんな折、再びくだんの令嬢の再度の訪米滞在に際しての警護を依頼される。しかし、CIAに呼び出された‘わたし’は、『暗殺者−キラー−』で‘わたし’を翻弄した凄腕の女暗殺者“ドラマ”の存在を告げられる。万全を期した警護の隙を突いて“ドラマ”に令嬢を誘拐されてしまった‘わたし’は、彼女を無事取り戻すため、相手の指示に従って動くしかなかった。
下巻・第二部:“ドラマ”の真の目的は、令嬢暗殺ではなく、‘わたし’だった。下巻31
ページ・3行目を読んだ時、あまりの驚きに私は本を落としそうになった。また別の
暗殺者“オクスフォード”から新たな警護対象者を守るための‘わたし’は<変身>するのだが、まんまと襲撃されてしまう。
下巻・第三部:“オクスフォード”の動きを封じるため、‘わたし’はロンドン、ジュネーブ、ウィーンと駆け回る。そして、彼との最後の対決が・・・。
上巻は従来の流れのボディーガード小説だが、下巻は組織の謀略を根底にした、既存の4作品を「捨て去った」と言ってもよいほど文字通り「逸脱」した新たな小説世界が
展開する。
本書は読者に「この先どうなってしまうのだろう」という危惧と期待を抱かせる、
シリーズの大きなターニング・ポイントとなる一作である。