読書記録55

哀国者 (講談社文庫)

哀国者 (講談社文庫)

グレッグ・ルッカの、“世界最強のハードボイルド”という惹句が付けられた、プロの
ボディーガード(パーソナル・セキュリティ・エージェント)、<アティカス・コディアック>
シリーズの第6弾。後期三部作の2作目。
前作『逸脱者』で暗殺者オクスフォードを斃すラストシーンから幕を開ける。
第一部:隠れ家に戻り、そこをあとにした‘わたし’ことアティカスは何者かに襲撃され重傷を負う。一方隠れ家でも仲間の裏切りから襲撃を受け、‘わたし’は大切な人を
失う。
第二部:旧ソ連グルジアに潜伏すること2年と3ヶ月と12日。裏切り者が見つかったというEメールが‘わたし’とパートナーのもとに協力者からようやく届き、彼を捕まえ、黒幕を追及する。
第三部:‘わたし’のわが身を犠牲にしての黒幕追求の闘いは続く。黒幕が動かして
いたのは現代の傭兵というべき民間軍事会社の兵士だと知るが、第二部の抗争の
犯人として国土安全保障省FBIから追われることになる。
第四部:官憲から危機一髪逃れた‘わたし’とパートナーは、ようやく黒幕の正体を
知るが、彼は合衆国の中枢で活躍する強大な存在で、容易に手を出せる相手では
なかった。‘わたし’たちは3ヶ月の準備期間と大きな犠牲をはらい、自らと友の復讐のため敵に立ち向かう。
ディテールにこだわり、いっさいの感情描写を排した闘いのシーンは、まるで全盛期のスティーヴン・ハンターの<ボブ・リー・スワガー>シリーズの諸作の如く、行間から
立ち上る迫力に圧倒される。また、全編に渡っての手に汗握る、潜入・工作・脱出、
そして謀殺といった展開は、冒険スパイ小説のそれである。
本書は、もはや初期の作品のような“ボディーガード小説”をはるかに凌ぐスケールを持った、まったく違ったジャンルの小説に変貌を遂げている。