読書記録56

回帰者 (講談社文庫)

回帰者 (講談社文庫)

グレッグ・ルッカの、“世界最強のハードボイルド”という惹句が付けられた、プロの
ボディーガード(パーソナル・セキュリティ・エージェント)、<アティカス・コディアック>
シリーズの後期三部作の3作目、シリーズを通しては第7弾となる完結編。
’10年、「このミステリーがすごい!」海外編で第20位にランクインしている。
前作『哀国者』からおよそ5年。‘わたし’ことアティカスは、旧ソ連黒海に面した
グルジア共和国コブレチの町の一軒家に、パートナーとその愛犬と共にひっそりと、
しかし警戒も怠りなく暮らしていた。アティカス・コディアック、36才、夏。
事件は起こった。親しくしていた隣人一家が惨殺され、14才の少女が連れ去られた
のだ。‘わたし’は少女を取り戻すべく立ち上がるが、そこに国際的な人身売買組織のネットワークの影が浮かび上がってくる。
グルジアからトルコへ、ドバイへ、アムステルダムへ、そしてラスヴェガスへ、‘わたし’は何かに取り憑かれたように“世界の裏路地”を奔走する。‘敵’との激しいアクションの末、今回も全身傷だらけになる。彼女を見つけ出すことは、すなわちおぞましい悪に鉄槌を下す闘いであり、‘わたし’にとっては、かつての自分といまの自分に折り合いをつけようとする自己との和解であった。
第1作からの愛読者である私は、完結編である本書を、まるで慈しむようにじっくり
読もうと思っていたが、ルッカの筆はそんな悠長にはさせてくれなかった。‘わたし’の次から次に転回するハイテンポな緊張感ある追跡行。後半には私立探偵ブリジットとその妹も登場し、このシリーズ全作に言える、最後の1ページまで息を抜けない緊迫のストーリーが読む者を没頭させて離さないのだ。
’96年の『守護者−キーパー−』から、人を守ることを生業としていた男が、ある女に出会って激変する、その生き様を描いてきた“稀代のハードボイルド”シリーズは、
現代ミステリー史に燦然と輝く足跡を残して’09年の本書で波乱の幕を閉じた。