読書記録66

アメリカ・サスペンス小説の新鋭ブレット・バトルズが、<掃除屋−クリーナー−>
という新たなプロフェッショナルを生み出した。<掃除屋>とは、スパイ活動における種々の事件(諜報機関同士の極秘会談、諜報工作活動、拉致、殺人など)の現場から秘密が漏れぬよう、あらゆる証拠・痕跡を消し去り、そんな事件はまったく
起こらなかったことにする仕事。それも、生きている人間の始末など手を血で濡らす
ことのないドライ・クリーナーだ。
本書はフリーランスでそんな仕事を生業にするジョナサン・クィンが初登場する’07年発表のバトルズの長編デビュー作である。’08年度、PWA(アメリカ私立探偵作家
クラブ)が主催するシェイマス賞の最優秀新人賞とアメリカのミステリー専門季刊誌
≪デッドリー・プレジャー≫が主催するバリー賞の最優秀サスペンス賞にノミネート
された。
訳出は“ボストンの鬼才”デニス・レヘインによるハードボイルド、<探偵パトリック
&アンジー>シリーズの翻訳で知られる鎌田三平。
ハワイ・マウイ島で休暇を過ごしたクィンは、お得意様である米政府系の
秘密情報機関≪オフィス≫から依頼され、寒風吹き荒ぶ1月のコロラド州デンバー
郊外の貸別荘で起きた火災現場に赴く。焼死した男が事故なのか殺人なのか調査
することが任務だった。ところが正体不明の“敵”に狙われ、追っ手を振り切るために
助手のネイトと共にアメリカを脱出、ベトナムホー・チ・ミン、ドイツのベルリンへと
移動することになる。
“敵”の正体と意図を探るうちに、民族浄化を企むセルビア工作員の生物細菌兵器テロという恐ろしい陰謀を知ることになる。
彼はネイトと、旧友のシングルマザー・オーランドと共にそれを阻止するために深手を負いながらベルリンの地で命を懸けて闘う。
深刻な事態に陥りながらもユーモアの効いた軽妙な語り口、緻密なプロットと息も
つかせぬ危機また危機の連続、スピード感溢れるストーリー展開は新人離れ
している。意表をつく結末も用意されており、本書は注目に値する<掃除屋>という
新たなスパイ・アクションの新機軸である。