読書記録68

完全恋愛 (小学館文庫)

完全恋愛 (小学館文庫)

’01年から始まった「本格ミステリ作家クラブ」が主催する「本格ミステリ大賞」の
’09年、第9回の受賞作。’08年、「このミステリーがすごい!」国内編で第3位、
週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で第6位にランクインしている。
牧薩次というのはベテラン・ミステリー作家・辻真先のもうひとつのペンネームで、自著に登場する探偵コンビ、牧薩次・可能キリコからとった名前である。
本書は、日本洋画界の巨星のひとり、柳楽糺(なぎらただす)・本名本庄究(ほんじょうきわむ)の、戦時中の少年時代から平成の世に亡くなるまでに遭遇した3つの不可解な殺人事件をからめた、大河ドラマを思わせる一代記である。
究は戦時中に家族を失い、山形県との県境にほど近い福島県の刀掛(かたなかけ)
という田舎の温泉場の伯父のもとに預けられていたのだが、敗戦直後そこで起きた
進駐軍大尉の刺殺事件がひとつ。昭和43年に、西表島の現場から2,300キロ
隔てた福島の山村から凶器が“飛んできた”としか思えない不可能犯罪がふたつめ。そして最後は、昭和63年、東京にいるはずの彼自身が、ある変死事件の起きた福島にいたと証言される“究極のアリバイ”事件。
これらの事件の影には、少年時代に出会った“運命の女(ひと)”小仏朋音(こぼとけ
ともね)への果たさぬ激しい恋心がからんでいた。戦後の昭和から平成にいたる、
世情・事件・企業の盛衰などを巧みにストーリーに溶け込ませながら、正統派本格
ミステリーの骨格に、「秘められた愛」「親子関係の秘密」を抱えて物語は展開する。
本書は、戦後から21世紀へ−ひとりの画家をめぐる<愛と犯罪>の物語であり、
ミステリー界の長老・辻真先が放つ、渾身の力作である。