読書記録80

警鐘(上) (講談社文庫)

警鐘(上) (講談社文庫)

警鐘(下) (講談社文庫)

警鐘(下) (講談社文庫)

現時点で15作が上梓されている、リー・チャイルドによる、ニュー・ハードボイルド
・元軍人<ジャック・リーチャー>シリーズの’99年発表の第3作。
前作『反撃』でモンタナ州での民兵組織との死闘からおよそ1年後の6月半ば。
リーチャーはアメリカ最南端フロリダ州のキー・ウェストで昼は重機を使わない
一般家庭のプール掘り、夜はヌード・バーの用心棒をかれこれ三ヶ月やって日銭を
稼いでいた。彼のもとにニューヨークの私立探偵が訪ねてくるところから物語は
始まる。やがてその探偵が無残な殺されかたをしたことを発見し、謎の依頼人探しと真相の解明に乗り出す。そして舞台はニューヨークへと移る。
本書も前作同様三人称多視点で描かれている。リーチャーが突き止めた謎の
依頼人、かつて軍で彼の上官だった中将の娘で今は離婚経験がある30才の
マンハッタン金融界で働く一流弁護士ジョディ。時流に乗り切れず凋落し破産寸前の企業の3代目CEO。後に重要な役割を果たす勇敢なその妻。その企業を乗っ取って
巨万の富を得ようとし、一方でリーチャーとジョディを執拗に狙う、先端が金属の鉤爪
(フック)になっている義手をはめた片腕の悪役。彼らのストーリーが交互に語られ、
その謎めいた人間関係が複雑に入り組み、なかなか全体像がつかめず、読者を
惹きつけ、どんどんページを進ませる。
軍時代に身につけた達人の域にある武道と拳銃の腕前、名探偵ばりの演繹的な
推理力、それらを随所に見せて、ジョディとの15年越しのロマンスをからめながら、
リーチャーはセントルイスへ、ハワイへと赴き、ヴェトナム戦争時の謎に包まれた過去の事件の記録をひも解き、片腕の男の真の目的に近づく。ラストにはとっておきの危機とアクションと“どんでん返し”が待っていた。
本書は、ホワイ・ダニットを中心に据えた巧緻なプロット構成で、謎解きの興趣を
ふくめたハードボイルド・サスペンスを盛り上げる、3作目にしてシリーズ屈指の雄編
である。